大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和47年(ラ)106号 決定 1972年11月07日

抗告人

田口精一

相手方

若築建設株式会社

右代理人

柳沼八郎

田邨正義

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨および理由は別紙記載のとおりである。

本件訴状記載の請求原因によれば、抗告人は相手方会社の株主であるところ、昭和四七年八月三一日開催された右会社の臨時株主総会において、訴外川田工業株式会社との合併に関する事項の報告を承認する旨の決議がなされたが、右決議をなすには、合併により消滅した右訴外会社の貸借対照表を参考資料として株主に交付することが正しい処置であるにもかかわらず、相手方会社が右義務を怠つたので、本訴により右決議の無効確認を求める、というのである。

しかしながら、仮りに抗告人主張のとおり相手方会社が株主に対し訴外会社の貸借対照表を交付しなかつたとしても、そのことによつて直ちに前記決議が法令または定款に違反して無効となるものとは解し難いばかりでなく、一件記録によれば、相手方会社は、前記株主総会において、出席株主に対し、合併引継資産負債明細書を配布し、これに基づいて合併に関する事項の報告をしたこと、右明細書は、表題こそ貸借対照表と記載されてはいないが、実質はまさに貸借対照表そのものであり、抗告人も出席株主の一員として右明細書を受領していることが認められるので、右株主総会の決議には抗告人主張の如き瑕疵はなく、抗告人自身そのことを知りながらあえて本訴に及んだものと推認するに難くない。

したがつて、抗告人は株主としての正当な利益を擁護する目的のもとに本訴を提起したものであるか否か極めて疑わしいばかりでなく、一件記録に徴すると、抗告人は前記株主総会の前後を通じて、いわゆる総会屋と目されるような言動に及んでいることが窺われるので、このような事情を参酌すれば、抗告人の本訴提起は、商法二四九条二項により準用される同法一〇六条二項にいわゆる「悪意ニ出デタルモノ」であることが一応疎明されたものといわなければならない。

とすれば、相手方会社の本件担保提供の請求は理由があり、これを認容した原決定は正当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用の負担につき、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(内田八朔 矢頭直哉 藤島利行)

抗告状《省略》

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例